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スパイスの特性

スパイスの特性

スパイスの有効成分

スパイスを料理に使う場合、漠然と加えていたのでは十分に効果が発揮されません。むしろ加えすぎることによって、逆効果になってしまうことがあります。「スパイスを使うと、どうしても薬臭くなる」といって、敬遠している人の多くは、その使い方に問題があることの方が多いです。
やはり、スパイスにはどんな成分が含まれていて、どんな効果が発揮されるかを理解することが、スパイスを使いこなす早道といえるでしょう。
たとえば、スパイスのなかで最高に高値といわれるサフランは、一グラム単位で高額な取引がされていますが、ピラフやブイヤベースなどを調理するときには、なくてはならないスパイスです。ピラフの黄金色やブイヤベースの色は、このサフラン中に含まれる色素成分(クロシン)によるもので、水には溶けるが油には溶けない性質を持ちます。当然このサフランを油料理に加えても、この黄金色は着色されません。
またパプリカは、サフランと同じように赤い色調を示しますが、含まれている色素成分はサフランとは異なるβ―カロチンです。このβ―カロチンはクロシンとは正反対で、油にはよく溶けますが、水には溶けない性質があります。
パプリカが、マーガリンの着色やビーフシチューやドレッシングなどの油料理の色付けに使われるのは、このためです。だから、サフランの代替品として、単純にパプリカを使うことはできないのです。使い方しだいでは、ある程度の代替効果は発揮できます。
このようなスパイスには、それぞれ効果を発揮させる有効な成分が含まれています。その効果を生かすためには、やはりスパイスの特性(成分を含む)を理解することが必要です。

注目すべき四つの効果

スパイスは植物であることから、繊維、糖質、脂質、たんぱく質、灰分、ゴム質、樹脂、揮発油(精油)などが成分として含まれます。
これらのなかでスパイスとして使う場合、特に重要な成分は揮発性の精油成分です。それぞれのスパイス特有の香りがあるだけでなく、薬理効果や防腐効果などの特殊な効果を発揮します。これらの効果は、この精油成分によることが多くなっています。
この精油は、一般的に無色か淡黄色の液体で、工業的には水蒸気蒸留法によって抽出されます。精油のことを英語でエッセンシャルオイルといい、省略して「エッセンス」と言います。しかし、市場に食品用香料として売られているエッセンスは、スパイスから抽出した揮発性の精油にアルコールを加えたものです。
また、外観がまったく同じスパイスであっても、香りが違う場合があるのです。こんなときはスパイス中の精油成分を調べてみるとその違いがよくわかります。
たとえば、シソ科のバジル(バジリコ)を種子から栽培する人が最近増えていますが、ときどき「ヨーロッパで料理に使ったバジルと香味が違う」ということを言われる方がいらっしゃいます。
バジルだけに限らず、こんな疑問を持った人は少なくないでしょう。植物も栽培の環境の違いにより、含まれる成分も異なるのです。バジルの場合も、精油成分を分析してみると、主成分であるシネオールやリナロールなどの含有量が違っていることがあります。
芳香性の面からの違いは、精油成分をみればわかります。スパイスにはどのくらい“精油成分”が含まれているのでしょうか。スパイス中に含まれる精油成分の含有量を百分率(%)で表@に示しました。

(表①)スパイスの精油収量(100g中,単位%)

種類 精油収量
アニス 1.9〜3.1
ベイリーフ 0.75〜2.0
カルダモン 3.5〜7.0
シナモン 1.9〜2.4
セロリ 2.0〜3.0
クローブ 0.4〜1.1
コリアンダー 2.4〜3.6
クミン 2.5〜4.0
ディル 1.0〜6.0
フェンネル 0.018〜0.04
オニオン 0.1〜0.2
ガーリック 1.8〜2.6
ジンジャー 4〜15
ナツメグ,メース 7〜16
こしょう 1.2〜2.6
セージ 1.4〜2.5
タイム 0.6〜0.74
オールスパイス 3〜4.5
キャラウェイ 3〜6

また、スパイスの精油含有量は、収穫する時期によっても大きく変化します。特にハーブ類の収穫時期は、この精油含有量の多いときに行った方がいいのです。種子をまいて本葉が出たからといって、いつ収穫してもいいとはいえないのです。
シソ科のマジョラムを例にとると、マジョラムの精油含有量は、開花二十時間後、一・〇四%、開花後四日目、二・八五%、開花後七日目、二・四八%、開花後十一日目、二・一九%となり、開花後四日目までは増加しますが、それ以降は時間とともに減少しました。
ひとくちにスパイスの精油成分といっても、実際にはたいへん複雑で数多くの成分から成り立ちます。また、香りが似ているスパイスは共通の精油成分を持っているといえます。
オールスパイスを例にとると、よくシナモン、クローブ、ナツメグをミックスしたような香味を持っているといわれています(このため中国名では三香子といい、三種類のスパイスを意味する)が、このオールスパイスを含めた四種とも、オイゲノールという成分が含まれていて、香味感が似ているのです。

精油成分の特性

スパイスに含まれている精油成分は、熱によって変化します。この成分も熱に対して弱い成分と強い成分があります。さらにスパイスには不揮発性の油も含まれているため、この成分も加熱によって変化します。
すがすがしい青じその葉を、てんぷらを揚げる温度で長時間加熱した場合は、青じそ特有の芳香がなくなってしまいます。逆にごまやけしの実などは、そのままでは芳香がないのですが、いったり、焼いたり加熱したりすると特有の芳香を発します。ごまやけしの実は、揮発性の精油成分がほとんど含まれておらず、多量の脂肪油を含んでいます。生の種子を油臭く感じるのはこのためですが、比較的高温で加熱すると、ごま特有の芳香(いりごまやごま油)を持つようになります。
たとえば、カレーを調理した場合、長時間加熱したあとでもスパイスの香味が感じられます。これなどは比較的熱に対して安定な成分の香味を感じているのです。きのう仕込んで味わったカレーの風味と、残して今日味わった風味とは違うものです。特に子供の嗜好では、長時間煮込んだカレーの風味を好むことが多いです。これなどは、加熱によって低沸点の青臭い精油成分が蒸発させられるからです。
スパイスの香味を評価する場合、調理前の香気で判断する人がいますが、スパイスを加えて調理(特に加熱)したあとでは、まったく異なることを覚えておく必要があります。

スパイスが持つ有効作用

スパイスは本来、嗜好性があるため、明確に使用基準を設けることは意味がありません。しかし、長い間の歴史によりスパイスの有意義な効果も見いだされています。
スパイスが持つ機能は、賦香作用(芳香性、刺激性、爽快性)、調味作用(辛み性、苦み性、甘み性)、着色作用(赤色、緑色、黄色)、矯臭・脱臭作用、抗酸化作用、抗菌作用、抗黴作用、薬理作用、テクスチャー(触感)の改良作用、栄養・食効作用などです。
これらの機能は、スパイスを使うことによって発現されますが、効果を高めるためには、用いる目的によって次の二つに分けて考えた方がよいです。
まず、スパイスを直接用いることによって得られる効果を直接効果(一次効果)とすれば、直接効果が複合されて得られる効果は間接効果(二次効果)となります。これをまとめたものが表Aです。

(表②)スパイスの期待効果

一次(直接)効果 芳香作用
調味作用(辛み、苦み、甘み)
着色作用(赤色、緑色、黄色)
抗菌作用
抗黴作用
薬理作用
抗酸化作用
二次(間接)効果 食欲増進作用
矯臭作用
脱臭作用
保存作用
テクスチャー(触感)の改善

料理にスパイスを使った場合、まず芳香作用や調味作用あるいは着色作用などの直接効果が働いて、これらが複合されて食欲増進効果や矯臭・脱臭効果などの間接効果が得られます。特に食欲増進効果は、辛みの刺激だけで得られるのではなく、芳香性や着色性などによっても得られるのです。

(引用元:味公爵)